法人カードを従業員に使わせるとき、1枚のカードと暗証番号を部署内で共有する運用は避けるべきです。誰が決済したか追いにくくなるだけでなく、暗証番号を第三者に知らせた状態となり、紛失・不正利用時の補償判断にも影響しかねません。基本は、実際に使う従業員を使用者として登録し、従業員ごとの追加カードを発行することです。
暗証番号は経理担当者が一括管理して配る情報ではありません。各カードの名義人本人だけが設定・記憶し、会社側は「利用者・利用目的・上限額・証憑・返却」のルールを管理します。
法人カードの暗証番号を共有してはいけない理由

暗証番号は、店頭決済などでカード名義人本人であることを確認するための情報です。日本クレジット協会は、家族や友人を含む他人に暗証番号を知らせないこと、カードと一緒に暗証番号を記したメモを保管しないことを案内しています。法人カードでも考え方は同じです。
「会社のカードだから暗証番号も会社で共有してよい」とは限りません。カード券面に従業員名が記載された使用者カードは、その従業員が利用する前提です。別の従業員への貸し回しは、カード会社の規約に反する可能性があります。利用者本人以外が暗証番号を知っていた場合、事故発生時の経緯説明も難しくなります。
| 運用 | 利用者の特定 | 暗証番号 | 経理確認 |
|---|---|---|---|
| 1枚を複数人で共有 | 伝票がないと困難 | 複数人に漏れる | 用途確認に時間がかかる |
| 従業員別の追加カード | カード単位で把握しやすい | 名義人本人のみ管理 | 明細と利用者を照合しやすい |
原則は従業員ごとの追加カード発行

出張、仕入れ、広告費などで法人カードを使う従業員には、カード会社へ使用者を届け出たうえで追加カードを発行します。JCBも法人カードの使用者追加手続きを案内しています。追加可能枚数、発行手数料、年会費、利用枠の設定方法はカードによって異なるため、契約中の発行会社で確認してください。
- 利用対象者を決める
役職ではなく、業務上カード決済が継続的に必要かで判断します。 - 本人名義の追加カードを申請する
氏名などを正確に登録し、到着後は名義人本人へ渡します。 - 本人が暗証番号を管理する
経理台帳には暗証番号そのものを記録しません。 - 利用ルールを承認させる
利用可能な費目、1回・月間上限、領収書提出期限を明文化します。 - 明細を定期照合する
カード別明細と申請・領収書を照合し、不明な利用はすぐ確認します。
日本クレジット協会が示す4つのポイント
暗証番号の扱いについて、日本クレジット協会は「知られない」「推測されない」「忘れない」「困ったときは?」の4点に整理して案内しています。法人カードでも考え方は同じで、社内ルールを作るときの土台になります。
| ポイント | 協会の案内 | 法人での読み替え |
|---|---|---|
| 知られない | 家族や友人であっても教えない。カードへの直接の書き込みや、暗証番号を書いたメモをカードと一緒に保管することは避ける。端末やATMへ入力する際は周囲に注意する | 上司や経理担当者にも伝えない。共有カードをやめ、名義人本人だけが知る状態にする |
| 推測されない | 生年月日の組み合わせ、住所(郵便番号・番地・部屋番号等)、電話番号、車などのナンバー、同じ数字(1111など)、連続する数字(1234など)、スマホやPCのテンキーの並び数字は避ける。設定済みなら変更する | 会社の代表電話や設立年月日、社員番号も同種の情報として扱う。全カード共通の番号にしない |
| 忘れない | 知られない・推測されないを満たしたうえで、自分が忘れない番号を設定・管理する。忘れると、暗証番号不要の一部の取引を除いてカードが利用できない | 忘れた場合の停止期間を業務上のリスクとして見込む。決済が止まる場面を想定して代替手段を用意する |
| 困ったときは | 分からない・変更したい場合は、契約しているカード会社のサポート窓口へ連絡するか、ホームページで手続き方法を確認する | 問い合わせ窓口と手続き方法を、カードごとに管理台帳へ記載しておく |
とくに「推測されない」の具体例は、社内規程へそのまま書き写せる粒度で示されています。禁止する番号を抽象的に「推測されやすいもの」と書くより、協会が挙げている7類型を列挙したほうが、設定時の判断が揃います。出典は日本クレジット協会「暗証番号の設定と管理のポイント」です。
暗証番号の設定・保管・変更ルール

推測されやすい番号を避ける
生年月日、電話番号、社員番号、住所の番地、連続した数字などは避けます。会社の代表電話下4桁を全カード共通の番号にする運用も危険です。カード会社側で設定できない番号が定められている場合もあります。
紙・チャット・台帳に残さない
カード裏面への記載、財布に入れたメモ、社内チャットでの送信、共有スプレッドシートへの保存は行いません。経理台帳で管理すべきなのは、カード番号の末尾、名義人、交付日、利用枠、保管場所、返却日などです。暗証番号は管理項目から外します。
忘れたら推測入力を繰り返さない
暗証番号を忘れた場合は、名義人本人または会社のカード管理責任者から発行会社へ照会・変更方法を確認します。変更時にカード再発行が必要になる場合があります。三井住友カードの法人カードでは、所定の変更届を受領後、新しい暗証番号のカード発送まで約1週間から10日と案内されています。日数や手順は発行会社ごとに異なります。

「照会」と「変更」は別の手続き
暗証番号がわからなくなったときの選択肢は一つではありません。三井住友カードのビジネスカードでは、現在の暗証番号を確認する「照会」と、番号そのものを変える「変更」が別々に案内されています。照会は手続き後およそ1週間で「暗証番号通知書」が郵送され、オンラインでの手続きにはVpassへのログインが必要とされています。変更のほうは書面での受付と案内されています。
この違いを知らないまま「変更」を選ぶと、番号を思い出せば済んだ場面でも書面のやり取りと待ち時間が発生します。逆に、番号が第三者に知られた可能性があるときは、照会では解決しません。従業員が離職する、カードを紛失する、貸与先が変わるといった場面では、番号を知る人を減らす必要があるため変更を選びます。どちらを選ぶかは「思い出せないだけか」「知られた可能性があるか」で切り分けます。
郵送前提の待ち時間を運用に織り込む
照会も変更も郵送を伴うため、即日では完了しません。出張や決済の予定が決まっている場合、手続きの申し込み日ではなく、書類やカードが届く日から逆算します。決済日の直前に気づくと、その決済に間に合わない可能性があります。
実務では、カードを貸与するときに暗証番号の確認手段と所要日数を利用者へ伝え、管理台帳の備考欄に発行会社の窓口と受付方法を記録しておきます。発行会社ごとに手続き名も日数も異なるため、自社が使っているカードの案内ページを一度確認し、社内規程に転記しておくと、担当者が交代しても同じ手順で対応できます。
退職・異動・紛失が起きたときの対応
退職日当日に回収する運用では、最終出社日の変更や有給消化で回収できないことがあります。退職手続きの開始時点でカード管理責任者へ通知し、最終利用日を決め、必要に応じて利用停止を先行させます。
- カードを物理的に回収した
- 発行会社へ使用者カードの解約・停止を依頼した
- 未確定明細と継続課金を確認した
- 経費精算と領収書提出を完了した
- カード情報を登録した通販・広告・SaaSから削除した
- 台帳に停止日・回収日・処分方法を記録した
カードや暗証番号を書いたメモを紛失した場合は、社内確認を待たず発行会社の紛失・盗難窓口へ連絡します。その後、直近の利用明細を確認し、身に覚えのない利用があれば発行会社の案内に従って届け出ます。暗証番号が漏れた可能性だけでも、変更またはカード再発行が必要か相談してください。
経理担当者が作るべき管理台帳
安全な法人カード管理は、暗証番号を集めることではなく、責任範囲を記録することです。カードごとに名義人、所属部署、利用目的、利用上限、交付日、停止日、カード番号末尾4桁を記録します。利用明細は月次だけでなく、可能なら通知機能や管理画面で週次確認し、少額の不審決済も放置しません。
共用カードをすぐ廃止できない場合は、暫定措置として貸出簿、事前承認、利用直後の返却、領収書の即日提出を徹底し、追加カードへの切り替え期限を決めます。ただし、暗証番号の共有を正当化する恒久策にはしないでください。
まとめ
法人カードの暗証番号は、カード名義人本人だけが管理する情報です。会社は暗証番号ではなく、誰にどのカードを渡し、何にいくら使えるかを管理します。従業員別の追加カード、明文化した利用規程、明細と証憑の照合、退職・紛失時の即時停止を組み合わせることで、不正利用と経理負担の両方を抑えられます。










