法人カードでよくある質問の最も多いものがこれではないでしょうか?今回は、「法人カードで貯めたポイントやマイルは社長自身のために使って良いの?」という質問に回答します。
法人カードで貯めたポイントやマイルは社長自身のために使って良いのか?
国税庁のウェブサイトによると
企業が提供するポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係について
企業ポイントの法的性質と消費者保護のあり方に関する研究会報告書によれば、ポイントプログラムは事業者と消費者との間の民法上の契約と評価され、ポイントの権利性や法的性質は当事者間の合意によって決定されるとされている。そのため、ポイントの法的性質は、個々の契約ごとに検討する必要があるが、少なくとも、契約当事者である事業者と消費者がポイントに関して共通して有している意思は、ポイント付与の元になった取引きとは別の何らかの給付を請求できる権利が付与されたものである、ということはできると思われる。つまり、ポイントプログラムの法的性質は、まず、対価を支払うことなく給付を受けることができるということから、贈与契約であるといえるであろう。
一方、贈与契約としてのポイントプログラムの契約が成立しても、具体的に、いつどのような給付が行われるかについては、何ポイント貯まった段階で、どのような給付を受けるのかにつき、受贈者である消費者の意思表示(特典の請求等)があって初めて贈与契約の目的物が確定することとなる 。つまり、受贈者である消費者の意思表示が停止条件として機能しているといえる。他方、約款による規定により、贈与者である事業者は、受贈者からの特典の請求等の意思表示により目的物が確定するまでは、受贈者が選択できる贈与の目的物を変更する権利、さらには、贈与契約を解除する約定解除権が与えられている。
これらを総合すると、ポイントプログラム契約により消費者が得る債権とは、法的には、(受贈者による意思表示という停止条件が成就するまでは、贈与者により行使可能な約定解除権等を付与した)停止条件付き贈与契約による債権であると評価できる。
出典:国税庁
要約すると
→ 法人カードで買い物をした場合は、買い物を販売した店舗からポイント分の贈与を受けたことになります。
→ ポイントをもらっても、使うかどうかはもらった本人が決めることであり、有効期限があるので失効する可能性があるだから、「停止条件付き贈与契約」に該当する
(5)所得該当性
イ 法的性質からの検討
ポイントの法的性質とは、停止条件付き贈与契約であった。その贈与の目的物は、特典として用意されている物品もしくはサービスの提供を受けるか、次回以降の商品等の購入時に支払代金の全部または一部を負担させる、または、支払代金を減額させるサービスの提供を受けることなどである。
ここで、債務負担または低額譲渡が「値引き」に当たらないかが問題となるが、ポイントプログラムにおいては、どれだけのポイントを使って売価をいくらとするかについて、販売者である事業者の意思の関与する余地がないため、課税されるべき所得を構成しない「値引き」には当たらず、全て課税される経済的利益となると考えられる。
要約すると
→ ポイントプログラムは「値引き」という考え方もあるが「ポイントを使った商品の販売価格がいくらになるのか?」お店が決めるものではないので、「値引き」には当たらない。全て課税される経済的利益となる
ロ 経済的実質からの検討
ポイントの経済的実質は、売買代金の値引きを行った上で、その値引き分の金銭を以ってポイントを販売したと考えることもできる。この考え方に基づいて課税を検討すると、「値引き」に相当する売買代金に対するポイント付与率は、通常の商取引における「値引き」と同様、事前に事業者が決定し、その条件を受け入れた消費者が当該商品と一定のポイントを購入するという取り引きとなり、課税所得を構成しない「値引き」に当たるものと考えられる。
要約すると
→ 経済的実質から考えると、値引き分をポイントプログラムとして付与したと考えることもできるので、これは「値引き」に相当する
ハ 租税法の適用の原則と所得該当性
租税法を適用するための課税要件事実の認定にあたっては、「真実に存在する法律関係からはなれて、その経済的成果なり目的なりに即して法律要件の存否を判断することを許容するものではない」ので、これに基づいてポイントを検討すると、(多くの条件が付されているものの)贈与契約が真実に存在する法律関係であり、そこからはなれて、経済的実質に着目して、「商品代金の値引きの上、対価を得てポイントを発行したものである」と捉えて法律要件の存否を判断するのは適当ではないといえる。つまり、ポイントは課税されるべき経済的利益となると考えられる。
要約すると
→
- イ 法的性質からの検討 → 「贈与」
- ロ 経済的実質からの検討 → 「値引き」
だけれども、法的性質から離れて、経済的実質を見てはいけないため、法的性質の方が重視され、ポイントプログラムは「贈与」にあたる
となっています。
つまり、
ということを言っているのです。
これは研究活動の報告資料であるが、国税庁のウェブサイトにアップされているものですので
法人カードで買い物をしたときに付与されたポイント = お店側からの贈与
となる可能性が高い
のです。
法人が贈与を受けた場合の仕訳は、
資産/受贈益
に該当するのです。
受贈益とは
を言います。
なのですから、
勝手に経営者・代表者・社長がプライベートのために使ってしまったら
業務上横領罪
になってしまいます。
業務上横領罪
業務上占有する他人の物を横領すると、業務上横領罪が成立する(刑法253条)。占有が業務であることで刑が加重される身分犯であり(不真正身分犯)、基本犯である単純横領罪が真正身分犯であることから、真正身分犯・不真正身分犯両方の性質を有する複合的身分犯である。法定刑は10年以下の懲役である。 (窃盗罪とは違い、罰金刑はない)
出典:wikipedia
ですから、税務署の見解をまじめに受け止めるとするならば
法人カードで貯めたポイントやマイルは社長自身のために使って良いのか?
が回答となります。
※実態では、業務上横領罪にはならず「役員報酬」「給与所得」として処理されることが多いです。
しかし、ここで重要なことは、「企業が提供するポイントプログラムの加入者(個人)に係る所得税の課税関係について」というのも、国税庁のウェブサイトに掲載はされているが、あくまでも研究報告書としての掲載であって、これ以外に国税庁のウェブサイトに公的にポイントの取り扱いを書いている部分は存在しないのです。(執筆時点2018年7月時点)
実務的に判断するとこうなります。
「法人カードで貯めたポイントやマイルは社長自身のために使って良いのか?」の実務的な判断
実務的な判断では
です。
というのも、給与所得の支払時に提出しなければならない「法定調書」を見てみます。
法定調書とは
を言います。
法定調書
1.給与所得の源泉徴収票(同合計表)
2.退職所得の源泉徴収票(同合計表)
3.報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)
4.不動産の使用料等の支払調書(同合計表)
5.不動産等の譲受けの対価の支払調書(同合計表)
6.不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書(同合計表)
7.利子等の支払調書(同合計表)
8.国外公社債等の利子等の支払調書(同合計表)
9.配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書(同合計表)
10.国外投資信託等又は国外株式の配当等の支払調書(同合計表)
11.投資信託又は特定受益証券発行信託収益の分配の支払調書(同合計表)
12.オープン型証券投資信託収益の分配の支払調書(同合計表)
13.配当等とみなす金額に関する支払調書(同合計表)
14.定期積金の給付補てん金等の支払調書(同合計表)
15.匿名組合契約等の利益の分配の支払調書(同合計表)
16.生命保険契約等の一時金の支払調書(同合計表)
17.生命保険契約等の年金の支払調書(同合計表)
18.損害保険契約等の満期返戻金等の支払調書(同合計表)
19.損害保険契約等の年金の支払調書(同合計表)
20.保険等代理報酬の支払調書(同合計表)
21.非居住者等に支払われる組合契約に基づく利益の支払調書(同合計表)
22.非居住者等に支払われる人的役務提供事業の対価の支払調書(同合計表)
23.非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書(同合計表)
24.非居住者等に支払われる借入金の利子の支払調書(同合計表)
25.非居住者等に支払われる工業所有権の使用料等の支払調書(同合計表)
26.非居住者等に支払われる機械等の使用料の支払調書(同合計表)
27.非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書(同合計表)
28.非居住者等に支払われる不動産の譲受けの対価の支払調書(同合計表)
29.株式等の譲渡の対価等の支払調書(同合計表)
30.交付金銭等の支払調書(同合計表)
31.信託受益権の譲渡の対価の支払調書(同合計表)
32.公的年金等の源泉徴収票(同合計表)
33.信託の計算書(同合計表)
34.有限責任事業組合等に係る組合員所得に関する計算書(同合計表)
35.名義人受領の利子所得の調書(同合計表)
36.名義人受領の配当所得の調書(同合計表)
37.名義人受領の株式等の譲渡の対価の調書(同合計表)
38.譲渡性預金の譲渡等に関する調書(同合計表)
39.新株予約権の行使に関する調書(同合計表)
40.株式無償割当てに関する調書(同合計表)
41.先物取引に関する支払調書(同合計表)
42.金地金等の譲渡の対価の支払調書(同合計表)
43.外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書(同合計表)
出典:国税庁
となっています。
もし、ポイントが経済的利益のある贈与だとしたら・・・本来は、この法定調書に「ポイント・マイルの受取に伴う調書」が入ってくるはずです。
きちんと課税するのが国税庁の仕事ですから
法定調書に「ポイント」「マイル」に関するものがない ≒ 現時点ではポイント・マイルの税務的な扱いは明確に決まっていない
法定調書に「ポイント」「マイル」に関するものがない ≒ 課税事由がない
ということがわかります。
「法定調書」が整備されていない間は
と判断することができるのです。
税務署も「誰がどのくらいのポイント付与を受けたのか?」を法定調書なしには調べようもないのです。
実際に、多くの税理士の方に上記の相談をしても、帰ってくる回答は
本来は法人カードで貯めたポイントは会社のために利用すべきものですが、法定調書が整備されていない間は「まだ」大丈夫です。
実際に税務調査で指摘を受けたという経験は今のところはありません。
というものです。
あくまでも、「現時点では」という但し書き付きですが
現時点では、数千円、数万円のポイントやマイルの使用を税務調査で指摘したところで、確認は面倒くさいし、回収できる追徴課税の金額も小さいし、「割に合わない」というのが税務署の本音だと思われます。
だから、ポイントやマイルが登場して何年、何十年も経過しているのに重い腰を上げないのです。
今後は、法人カードで貯めたポイントやマイルも、課税対象になるかもしれない!?
というのは
あくまでも、執筆時点(2023年12月時点)の見解です。
今よりも、ポイントプログラムや電子マネーが普及したら、
- ポイントやマイルの扱いに対する正式な見解を国税庁が出す
- 法定調書にポイントやマイルに関する報告書が入る
- 税務署でポイントやマイルの個人使用に対する指摘が入る
可能性はあります。
今のうちにポイント還元率の高い法人カードを作って、個人利用でポイントを貯めて使ってしまうと良いでしょう。
筆者自身の話をすると
法人カードで貯めたマイルで、プライベートな旅行に行きます。
基本的は、脱税をするつもりはありませんが、国税庁が明確な見解を出さない限りは大丈夫だと考えております。
とはいえ、自己責任で法人カードで貯めたポイントやマイルの使用は行ってください。
「法人カードで貯めたマイルで、家族での海外旅行に行っていいの?」
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