法人カードのセキュリティが重要な理由
法人カードは、単なる決済手段ではなく、企業の資金管理や信用管理に直結する重要なツールです。適切なセキュリティ対策がなされていない場合、会社全体の財務に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。
まず、法人カードは企業資金を直接扱うため、第三者による不正利用や従業員のモラルリスクが常につきまといます。万が一不正利用が発生すれば、被害額の補填だけでなく、社内調査・再発防止策の構築など、膨大なリソースを費やすことになります。これが繰り返されれば、社内の信頼関係の悪化や取引先からの信用低下にもつながりかねません。
また、法人カードにはカード番号やセキュリティコードといった機密情報が紐づいており、これらが外部に漏洩すれば、悪意ある第三者によって高額な被害が発生する可能性もあります。とくにインターネット取引の増加により、カード情報の詐取や不正サイトによる被害報告も年々増加傾向にあります。
さらに、企業規模が大きくなるほどカードの利用者や利用シーンが多様化し、ガバナンス体制が求められるようになります。どこで、誰が、何に使ったかを可視化・管理できない状態は、経営上の重大なリスクといえるでしょう。
法人カードのセキュリティ対策は、「被害に遭ってから動く」のではなく、「被害を未然に防ぐ」ことが求められます。カードを安全に管理・運用する仕組みを整えることは、企業の健全性を維持し、将来的な成長を支える土台づくりにもつながります。
法人カードの主なセキュリティリスク
法人カードには、日常的な業務に役立つ便利な機能が多く備わっていますが、その利用にはさまざまなセキュリティリスクが潜んでいます。主なリスクとして、社内での不正利用や外部からの悪用、インターネットを通じた情報漏洩などがあります。これらのリスクをしっかりと認識し、対策を講じることが企業の安全な運用には欠かせません。
【社内】従業員による私的利用・誤用
法人カードは、経費支出を管理するための重要なツールですが、従業員による私的利用や誤用が問題になることがあります。例えば、業務に関係のない商品やサービスを購入することがあり、これが企業の経費として不適切に処理されることになります。また、従業員がカード情報を適切に管理せず、他の社員とカードを使い回すことで不正利用が発覚しにくくなる可能性もあります。こうした事態は、企業内での信頼関係を損なうだけでなく、法的な問題にもつながりかねません。
【外部】盗難・紛失による第三者の悪用
法人カードが盗難や紛失に遭うと、外部の第三者によって不正利用されるリスクが高まります。法人カードの利用者がカードを紛失した場合、迅速にカードを停止することが求められますが、その対応が遅れた場合、大きな損失を被ることになります。また、カード情報が不正に使用されることによって、企業の信頼が損なわれることも避けなければなりません。
【ネット】情報漏洩・フィッシング詐欺
オンライン取引の増加に伴い、法人カード情報がインターネット上で不正に取得されるリスクも拡大しています。フィッシング詐欺やスパムメールを使って、カード情報を盗み取ろうとする犯罪者が増えているため、ネット上での取引に際しては特に注意が必要です。さらに、セキュリティ対策が甘いサイトでカード情報を入力した場合、第三者によって不正に情報が漏洩し、その後不正利用される可能性があります。
これらのリスクは、カード運用のルールや管理体制が不十分な場合に高まります。リスクを最小限に抑えるためには、適切な管理策を講じ、すべての利用者に対してセキュリティ意識を高める教育を行うことが重要です。
セキュリティを強化する法人カードの使い方
法人カードを安全に運用するためには、日々の使い方そのものに工夫を加えることが重要です。高機能なカードを選ぶだけでなく、運用ルールを徹底し、リスクの芽を早期に摘むことで、被害を未然に防げます。
利用者の明確化と利用権限の制限
法人カードの貸与対象は、業務上の必要性がある社員に限定しましょう。必要以上に多くの従業員に発行すると、誰が何の目的で使ったのかが不透明になり、ガバナンスが効きにくくなります。また、経費区分ごとに使用目的を明確にし、利用範囲を細かくルール化することも有効です。
利用申請・承認フローの導入
カード利用の前に申請と上長の承認を必要とする運用にすると、不適切な支出を未然に防ぎやすくなります。特に高額な決済や、普段と異なる用途での利用には、追加の承認ステップを設けることで、社内チェック体制が強化されます。
利用履歴のリアルタイム監視
カード利用の都度通知が届くシステムや、クラウド型の経費管理ツールを導入することで、経理担当者が即座に内容を確認できるようになります。タイムラグをなくすことで、不審な取引への迅速な対応が可能となり、被害の拡大を防げます。
定期的なモニタリングと分析
月次や四半期単位でカード利用履歴をチェックし、過去の利用傾向と照らし合わせて異常値を検出することで、早期発見につながります。過去に不正が起きたケースを参考に、チェック項目を定期的に見直すことも大切です。
利用明細と証憑の突合確認
すべてのカード利用に対して、領収書や請求書の提出を義務付けましょう。経理部門で利用明細との突合を行うことで、私的利用や用途不明な支出を可視化できます。紙の管理が難しい場合は、経費精算ソフトでの電子証憑の一元管理も検討してください。
利用ポリシーと教育の徹底
法人カードのセキュリティ対策はシステムだけでは不十分です。すべての利用者に対して、利用ルールやセキュリティの重要性を定期的に研修・周知し、カードは「会社の信用を預かるもの」であるという意識を根付かせることが必要です。悪意のないミスによる不正利用も、教育によって防げる可能性があります。
適切なルール設計と日常的なチェック体制の構築により、法人カードのリスクは大幅に軽減できます。管理の負担を減らしつつ高いセキュリティを維持するには、制度と仕組みの両輪での対応が欠かせません。
法人カード選びで注目すべきセキュリティ機能
法人カードを導入する際は、使い勝手だけでなく、セキュリティ機能がどこまで備わっているかを重視することが重要です。特に、不正利用や情報漏洩リスクに備えるためには、以下のような機能を備えたカードを選ぶことで、万が一のトラブルにも強い体制を構築できます。
利用通知機能・リアルタイム反映
カードの利用直後に通知が届く機能は、不審な決済の早期発見に直結します。社内でのミス利用や外部による不正アクセスも、即時に確認できるため、被害を最小限に抑えることが可能です。通知の設定は、メール・アプリ・管理画面など多様な手段で行えるカードを選ぶと便利です。
利用上限・用途制限の設定
カードごとに利用限度額や利用可能カテゴリ(出張費・通信費など)を制限できる機能は、特に追加カードを多数発行する企業にとって必須です。設定された範囲を超える利用ができないため、意図しない高額決済や不適切な経費処理を防止できます。
オンライン不正利用検知機能
ECサイトなどでの不正利用に対応するため、不正アクセスを自動で検知・ブロックするセキュリティ機能があるかどうかもチェックすべきポイントです。過去の利用傾向と異なる地域や高リスク業種での利用があった場合、自動的に決済を保留にするなどの措置を取れるカードは安心感があります。
プリペイド・デビット式の選択肢
利用上限を事前チャージまたは口座残高の範囲内に制限できるプリペイドカードやビジネスデビットカードは、利用額をコントロールしやすく、不正利用時の被害額を最小限に抑えられます。中小企業やスタートアップなど、資金繰り管理が重要な企業に適しています。
不正利用補償・内部不正対策保険
万が一不正利用が発生した際の損失を補填してくれる補償制度の有無も重要です。多くの法人カードには、紛失・盗難に起因する不正利用への補償がありますが、近年は従業員による私的利用など内部不正にも対応する保険が付帯しているカードも登場しています。補償内容と対象条件を事前に確認しておきましょう。
多段階認証やICチップ対応
ログインや決済時に二要素認証(2FA)やワンタイムパスワードを用いる仕組みが整っているかも確認しておくべきです。また、磁気ストライプのみのカードではなく、ICチップ搭載のカードを選ぶことで、スキミングなどの物理的な不正対策にもなります。
これらの機能は、単体ではなく複数を組み合わせてこそ真価を発揮します。導入前には、自社の業種や組織体制に適したセキュリティ機能が揃っているかを見極め、コストとのバランスをとったカード選定を心がけましょう。
オンラインでのカード利用時に気をつけること
法人カードをオンラインで利用する際は、セキュリティ上のリスクが高まるため、細心の注意が求められます。特に近年では、フィッシング詐欺や情報漏洩による不正利用が増加しており、企業規模を問わず狙われるケースが後を絶ちません。以下のポイントを押さえて、安全なカード運用を徹底しましょう。
SSL暗号化などのセキュリティ対策が施されたサイトかを確認する
オンライン決済を行う際は、必ず「https」や鍵マークが表示された通信暗号化済みのWebサイトを利用してください。これがないサイトでは、カード情報が第三者に傍受されるリスクがあります。また、サイトURLに不審な文字列が含まれている場合は、公式サイトを装った偽サイトの可能性があるため、アクセス自体を避けるのが賢明です。
不審なメールやポップアップでの情報入力は厳禁
「カードの有効期限が切れそうです」「セキュリティ確認のため情報を入力してください」といった文言で情報入力を促すメールは、ほとんどがフィッシング詐欺です。メールやポップアップから直接カード情報を入力するのではなく、公式サイトに自らアクセスして手続きを行うようにしましょう。
社内で「利用を許可するサイト」の基準を明文化する
業務上必要なサイトのみを対象に、法人カードのオンライン利用を許可するルールを設けることで、無防備なサイトへのアクセスを防げます。例えば「Amazonビジネス」や「法人向けクラウドサービス」のみに限定するなど、明確な線引きが有効です。あわせて、社内にブラックリストを共有し、過去にトラブルのあったサイトや個人運営の不明確なサービスなどは排除する運用を行いましょう。
ブラウザや端末のセキュリティ対策も怠らない
ウイルス対策ソフトやファイアウォールの導入はもちろん、ブラウザ・OS・セキュリティソフトは常に最新の状態に保ちましょう。攻撃者は古いバージョンの脆弱性を突いてくるため、システムの更新を後回しにすると重大な被害につながるおそれがあります。
カード情報の保存・共有は禁止する
「次回から入力を省略」のチェックを入れてカード情報を保存したり、メモ帳・スプレッドシートにカード番号を記録したりする行為は厳禁です。さらに、上司や同僚とIDやカード番号を共有することも情報漏洩リスクを高めます。法人カードは原則として、使用者本人のみが取り扱うよう社内ルールを徹底しましょう。
公共Wi-Fiでの利用は避ける
カフェや空港などのフリーWi-Fiを通じたオンライン決済は、通信が暗号化されていない場合、情報を傍受される危険があります。カード決済を伴う操作は、必ず社内LANやVPNを利用するなど、安全なネットワーク環境下で行うようにしてください。
オンライン取引の利便性は高い一方で、適切な対策がなければ重大な損失につながります。法人全体でリスクを共有し、定期的な研修やセキュリティチェックを実施することで、安全な運用体制を構築しましょう。
不正利用されたときの対応手順と補償の活用
万が一、法人カードが不正利用された場合は、初動の早さと正しい手順が被害を最小限に抑える鍵となります。焦らず冷静に、以下のステップに従って対応を進めてください。
1. すぐにカード会社へ連絡し、利用停止の手続きを行う
不正利用の疑いがあると判明した時点で、直ちにカード発行元に連絡し、カードを一時停止または利用停止にしてください。24時間対応の窓口が用意されているケースが多く、早急な対応が被害拡大を防ぐ上で最も重要です。
電話での連絡に加えて、可能であれば専用アプリや管理画面からの操作も併用すると安心です。
2. 社内関係者への周知と調査体制の構築
カード利用に関係する従業員や経理部門へ事態を共有し、誤利用や内部不正の可能性も視野に入れながら状況を確認しましょう。必要であれば、社内ログやメール履歴、経費申請情報なども照合し、利用状況の洗い出しを行ってください。
複数人で共有していたカードや、社外での利用歴がある場合は、詳細な使用履歴の取得が早期解決の鍵となります。
3. 警察への被害届の提出(外部犯行が疑われる場合)
第三者による不正アクセスや盗難が疑われる場合は、警察署に被害届を提出しましょう。カード会社によっては、補償申請時に「受理番号」の提出を求められるケースもあります。提出後は控えの書類を保管しておくとスムーズです。
4. カード会社の調査協力と証明資料の提出
カード会社が不正利用の事実を確認するため、取引明細や社内での利用記録、関係者の証言などの資料提出を求めてくることがあります。あらかじめ経費精算ソフトやクラウド管理ツールなどで証憑をデジタル管理しておくと、対応の手間を大きく削減できます。
提出時は、取引ごとの説明や、不審な点の補足情報も一緒にまとめておくと、補償審査がスムーズに進みやすくなります。
5. 補償制度の内容を確認し、請求手続きを行う
法人カードには通常、不正利用に対する補償が付帯されています。ただし、補償の適用には「所定の期限内の報告」「本人に重大な過失がないこと」などの条件があります。内容はカード発行元ごとに異なるため、日頃から契約内容を確認しておくことが重要です。
申請後はカード会社が調査を行い、不正利用と認められた場合に限り、損害額の一部または全額が補填されます。
6. 今後の再発防止策を社内で策定・共有する
不正利用の原因が判明したら、再発防止策として、運用ルールや管理体制の見直しを行いましょう。たとえば、追加カードの発行制限、利用通知機能の活用、定期的な監査の実施などが有効です。全社的にセキュリティ意識を高めるための研修実施も検討してください。
被害後の対応次第で、企業の信頼回復や再発防止の成否が左右されます。万全のセキュリティ体制を整えるきっかけとして、前向きな改善につなげていくことが求められます。
セキュリティ意識の高い企業がやっていること
セキュリティ対策に優れた企業では、法人カードの安全な運用を「一部の担当者だけの業務」にとどめず、組織全体のガバナンス強化の一環として取り組んでいます。ここでは、先進的な企業が実際に導入している取り組みを紹介します。
カード管理ポリシーを社内規程として明文化
セキュリティ意識の高い企業では、法人カードの運用ルールを社内規程として明文化し、社員全員に共有しています。具体的には、利用可能な経費項目、申請・承認フロー、領収書提出の期限などを細かく定めた「法人カード運用マニュアル」を用意し、新入社員研修や定期的な社内説明会で内容を浸透させています。
ルールが文書化されていることで、万が一のトラブル時にも責任の所在が明確になり、社内対応を円滑に進めやすくなります。
経費精算システムとの連携で不正の芽を可視化
多くの企業が、法人カードの利用明細と経費精算ソフトをリアルタイムで連携させ、利用状況を常に可視化しています。たとえば、マネーフォワードクラウド経費やfreee経費などを活用することで、カード利用と同時に経費申請が記録され、上長の承認もオンラインで完結します。
これにより、経理部門は利用履歴を都度確認する必要がなくなり、申請の抜け漏れや不正な経費精算の早期発見にもつながります。
ICチップ付きカードと生体認証の活用
高度なセキュリティを重視する企業では、ICチップ付きの法人カードを標準とし、決済時にPINコードや生体認証を必須とする体制を整えています。これにより、万が一カードを紛失しても、第三者による不正利用のリスクを大幅に軽減できます。
また、ログインや経費処理システムに対しても、多要素認証(MFA)を導入し、ID・パスワードだけではアクセスできないようにすることで、不正アクセスのリスクを抑えています。
年1回の社内監査とリスクレビューを実施
一部の企業では、法人カードの運用状況について年に1回以上の内部監査を実施しています。利用明細と領収書の突合、ルール違反の有無、カードの不要発行チェックなどを行い、その結果を役員会やコンプライアンス部門と共有することで、継続的な改善を図っています。
リスクレビューの結果から、過去の利用傾向や潜在的なリスクを可視化し、次年度のカード利用方針や発行数の見直しに活かしている点も特徴です。
利用者全員へのセキュリティ研修を定期開催
セキュリティ対策はシステムだけでは完結しません。実際にカードを使う社員一人ひとりの意識を高めるため、セキュリティ研修やeラーニングを定期的に実施している企業もあります。
研修内容には、フィッシング詐欺の最新手口、社内のルール違反事例、補償の適用条件などが含まれ、単なる知識ではなく「具体的にどう行動すべきか」が伝えられるよう工夫されています。
このような取り組みを継続して行うことで、法人カードの利用が組織として統制された状態になり、不正利用や漏洩のリスクを大幅に抑えることが可能になります。